PROJECTS制作事例

2024.03.08 #3DCG #3DCGホログラム #非接触

明星大学 建築技術・技能教育のための「3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置」製作

学校法人 明星学苑 明星大学 建築学部 建築学科 西澤秀喜教授からご依頼いただき、2次元の建築図面から構造物の完成形状(3次元モデル)をイメージしやすくするため、建築技術・技能教育に向けた「3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置」を開発いたしました。

今回は西澤教授の研究室に伺い、本装置導入に至るまでの研究内容や、今後の展望をお話しいただきました。

学校法人 明星学苑 明星大学 建築学部 建築学科 西澤秀喜教授

■ 開発の背景

 

建築教育の現場で抱えている課題

少し前の時代まで、建築物の情報は3次元データのまま保管・共有する手段がなく、平面図・立面図・断面図といった2次元の建築図面に落とし込むことでその代わりとしていました。そのため、技術者には建築図面から3次元的に建物の構造をイメージする「図面読み取り」のスキルが必要とされています。

「図面読み取り」を身につけた熟練の技術者は、建築図面を見た瞬時に建築物の立体的な構造を思い浮かべることができますが、初学者にはそれが難しく、このことが技術・技能継承における課題になっていました。

 

デジタル技術での解決を模索

西澤教授はデジタル技術を活用した建築教育についての研究も行っており、この「図面読み取り」スキル習得の課題に約7年の間取り組んでこられました。

2次元の建築図面を読み取るスキルは技術者にとって重要なものですが、3次元の世界で生きる我々にとってのわかりやすさでは、現実と同じ3次元のモデルに軍配が上がります。

そこで西澤教授が開発したのが、建築図面と立体的な構造物の3次元モデルを紐付けて、建物の完成形状や建築の各工程のイメージ化をサポートするデジタル教材群でした。

 

第1フェーズ:AR教材(スマートフォン・タブレット)

この研究で初めに開発したのが、スマートフォンなどを介して建築図面から3次元モデルを表示するAR(拡張現実)コンテンツでした。

このコンテンツは、あらかじめ3Dデザインソフトで作成した3次元モデルに、読み込み用マーカーとして元になった2次元の建築図面を紐付けたもの。ARアプリを起動したスマートフォンなどを建築図面(マーカー)にかざすと、デバイスの画面上に3次元モデルが表示されます。画面上で3次元モデルの拡大縮小や回転もできるため、さまざまな角度から建築物の構造を確認することが可能です。

ARアプリを起動したタブレットを2次元の建築図面にかざすと、画面上に関連する3次元モデルが現れる

このAR教材では、建築の各工程のスライドショー表示や、1つのマーカーと複数コンテンツの紐付けといった、教材として必要な動作は実装できました。

しかし、スマートフォン等を手に持って閲覧しなければならないことが、教育現場での活用のネックになっていました。手が塞がった状態では、鉄筋の組み直しなどの実習作業と並行して3次元モデルを確認することができなかったためです。

建築図面から、ARアプリで3次元モデルを呼び出した状態。段階的に壁を立てていく経過がわかるようになっている。
3Dデザインソフトで作成したスライドショー動画。これもARコンテンツとして表示されているもの。

第2フェーズ:MR教材(Microsoft HoloLens 第一世代)

第1フェーズでの「手が塞がる」という課題を解決するために導入したのが、Microsoft社のヘッドマウントディスプレイ「HoloLens(ホロレンズ)」。これによって頭部に装置を固定できるようになり、両手をあけたまま3次元モデルと自分の視点での映像を重ねて見ることが可能になりました。

教授が装着しているデバイスが第2フェーズの研究で導入した「HoloLens(ホロレンズ)」。

このコンテンツでは、一度マーカーを読み込めば空間内に3次元モデルを定位できることから、見る側の移動で視点が変わり、より自然な形で自分が確認したい部分を見に行けます。

また、実際に鉄筋を組む作業をする傍らに実寸サイズでお手本の3次元モデルを表示して、両者を見比べながら作業を進めたり、複数人が同時に別方向から3次元モデルの構造を見ながら意見を出し合ったりといった、学習用途に適した使い方が可能になりました。

ただ一人用の装置としては高額だったため学生の人数分用意するまでには至らず、装置を装着した個人の体験に限定されてしてしまう、という新たな課題が残ることに。

そこで、次のフェーズでは別途複数人が同時に同じ3次元モデルを視認できるような仕組みづくりを模索することになったのです。

実際にHoloLensを装着して鉄筋を組む様子
実際に技能検定で使われるものと同じ鉄筋。研究室内にあり、学生が鉄筋を組む練習を行っている。
HoloLens内の視界では、3次元モデルの鉄筋と実際の鉄筋が重なるように表示される

■ 3DCGホログラム表現の導入

 

第3フェーズ:3DCGホログラム表現

こうして今回導入されたのが、第1・第2フェーズでの課題をクリアした「3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置」です。

今回は据え置き型の筐体で、見る側が個別に装置を身につけることなく裸眼で3次元モデルを視認でき、投影面が正面と両側面の計3面あることから、多人数が同時に装置を囲んで映像を見ることも可能になりました。

表示された3次元モデルは、自立式スタンドに埋め込まれたセンサーデバイスやボタンによってコンテンツ切り替えや回転などの操作ができ、デバイス類を手に持つ必要がありません。

本装置での3次元モデルの表示にあたっては、独自のアプリ(Unity使用)を開発しており、学生が普段制作しているCAD(.fbxや.obj)形式のデータを所定のフォルダに投げ込むことで、自動的に装置に適したデータを生成・表示しています。

さらにBIM(Building Information Modeling)で制作されたCADデータを元にしているため、鉄骨や壁を立てる順番など、多数の工程を切り替えながら確認できることも建築工程の3次元的理解に役立つ特徴の一つです。

3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置で表示した3次元モデル
自立式スタンドにボタンとセンサーデバイスが埋め込まれている
動画は株式会社ニシカワ Nexmedia YouTubeチャンネルにてご覧いただけます。>>> https://youtu.be/rEvDqFgjI_Y

■ デジタルコンテンツが建築教育にもたらす効果

 

卒業研究で教材を制作し、効果を確認

西澤教授の研究室では、毎年4年生が過去3年間の学びの中でわかりづらかった部分の理解促進や、各種技能検定課題への取り組みをサポートするための可視化教材を独自に制作し、卒業研究として発表してきました。

教科書内の専門用語や2次元で表された図を視覚的に補足するAR、建築物の検査時にどんな部分をチェックするのかを3次元モデルで表現したコンテンツなど、それぞれが研究の中で教材コンテンツを制作した結果、現在研究室には有用な可視化教材が多数蓄積されています。

しかし、教材を作っただけでは卒業研究として成り立ちません。その教材に効果があったかどうかを明らかにすることも重要なので、学生たちは長い時間をかけて実験やデータ分析をして、効果を検証していきます。

鉄筋や木造軸組の組み立て作業で、AR・MR教材の効果を検証した際には、2次元の建築図面のみを見て作業を進めたグループと、3次元モデル教材を参照しながら進めたグループとでは、後者の方が完成までの所要時間が短く、しかも正確に組立てられることが明らかになりました。

 

「図面読み取り」スキル習得までの期間短縮

3次元教材によって初学者が瞬時に熟練者と同じ目線で建築図面を読み取ってしまうと、この図面読み取りスキルを習得できなくなってしまうのでは、という懸念の声もありますが、このスキルは通常の学習環境の中でも大学3・4年生ごろに習得が可能なもの。

実際には、3次元教材によって図面読み取りスキル習得までの時間が短縮できることこそが、これらの装置の良いところ。そしてスキルを習得し建築図面を読み取ることに慣れてしまえば、この教材を立ち上げることの方がむしろ煩わしく感じるようになるそうです。

 

 

■ 本装置の活用と展望

 

研究室の外での活用も視野に

「3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置」の開発・導入にあたっては、明星大学の「戦略的投資予算」が適用されました。

これは学内でも将来が展望できるとして選抜された教育・研究設備等に付けられる予算であり、西澤教授の研究テーマ及び本装置に対する大学からの大きな期待が込められたものです。

学内での建築物や施工工程への理解促進という本来の役割だけでなく、建築学科への興味喚起のため、オープンキャンパスでキャッチーな体験コンテンツとして展示することや、国内外における技術・技能教育への展開なども視野に入れて、今後も有効に活用されていく予定です。

また、普段からBIMを使っている学生にとって、CGで作られた建築構造を順を追って見ること自体は珍しいことではありません。だからこそ、今後この装置で通常見ることのできない大規模建造物の内部構造を見せるような使い方もできないか、という声も上がっています。

 

建築技術・技能教育の近未来を、この場所から

ARは「拡張現実」と訳され、デジタルの力で視覚を拡張して肉眼だけでは見られないものを見られるようにするものです。

これからの世界では、ARで視覚を拡張したり、パワードスーツで身体能力を拡張したりするように、人体の他の機能も拡張されていくだろう。そう西澤教授は考えておられ、この研究室に揃うデジタルコンテンツ群はその第一歩でもあります。今後新たな機器を導入することも検討されており、近いうちに更なる教材のアップグレードも期待できることでしょう。

学びの中でデジタルコンテンツを活用し、感覚を拡張することで、従来よりも効率的に技術・技能を習得していくーー。

遠い未来ではなく、ほんの少し先にある近未来の建築技術・技能教育が、この場所から動き出しています。

西澤教授と今回開発した「3DCGホログラム表現用特殊3面表示装置」
明星大学建築学部建築学科のある29号館
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